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鈴木研究室

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2025年度 ドロップレット操作と画像AIによる細菌スクリーニングシステムの開発 補助事業


2025年度 ドロップレット操作と画像AIによる細菌スクリーニングシステムの開発 補助事業



(1)実施内容(何を目指して何をしたか)

この研究は、豊かな自然や社会を未来に残すために、役立つ微生物(目に見えない小さな生き物)を効率よく見つけ出す技術をパワーアップさせ、実際に使えるようにすることを目指しています。これまでに、非常に小さな水滴(マイクロドロップレット)を使って、化学製品の材料を作ってくれる細菌を1つずつ見分けるシステムを作ってきました。今回はその進化系として、画像を見分けるAI(人工知能)と、微細な液体の通り道を持つチップを組み合わせて、自動で目的の細菌を選び出すシステムを開発します。

この『マイクロドロップレット法』は、ごくわずかな水分の中でたくさんの細胞を同時に育てることができ、他の雑菌が混ざる(コンタミネーション)のも防げる優れた技術です。この技術をベースに、深層学習(AIの仕組み)を使って水滴の中の細胞画像を分析し、役に立つ生き物を見つけて回収する仕組みを作ります(図1)。

特に、魚の養殖で問題になる「魚の病気(魚病菌)」に注目し、病気の原因になる菌を退治してくれる環境中の優しい細菌を、画像AIを使って探し出すことに挑戦しています。また、ロボットで細胞を拾い上げる装置を作っている企業とも協力し、安くてコンパクトなシステムとして商品化することを目指しています。

この研究が成功すれば、複雑な遺伝子の操作などをしなくても、簡単かつスピーディに役立つ微生物を選べるようになります。それぞれの漁場に合わせた病気対策ができるようになり、持続可能な食糧生産や、環境に優しい社会づくりに貢献できます。



図1:システムの全体イメージ
A) 細菌のグループを、ごく小さな水滴(DL)に閉じ込める。
B) 水滴の中で細菌を育てる。
C) チップの上に水滴をきれいに並べて、顕微鏡で写真を撮る。
D) 写真をAI(機械学習)に読み込ませて、目的に合う細胞を見つける。
E) 目的の細胞が入った水滴だけをロボットで回収(ピッキング)し、次の実験や培養に使う。

① 小さな水滴(ドロップレット)の中で細菌を育てる工夫

  • 水滴の中で細菌を育てる条件の決定:まわりをオイルで囲んだ小さな水滴(ドロップレット=DL)の中に、病気の原因になる菌や環境中の細菌を閉じ込め、うまく育てる方法や栄養の条件を完成させました。
  • 高性能な顕微鏡での撮影:今回の助成金のおかげで、キーエンス社の最先端の顕微鏡(BZ-X1000)を導入しました。これにより、細菌を撮影するスピードと画質が格段にアップしました。普通のカメラに比べて画素数が非常に多いため、広い範囲を一度に撮影しても、1ミリの1000分の1(1µm)という超ミニサイズの細菌を1匹ずつはっきりと確認できます。さらに、複数の写真をパズルのようにつなぎ合わせて広い範囲を写す機能もあり、AIの学習に欠かせない「大量の画像データ」を集める準備が整いました。

② 上が開いたチップ(オープン型流路)の改良

  • 乾燥を防ぐ工夫:ターゲットとなる優秀な細胞を、細いガラス管で吸い上げて回収(ピッキング)しやすくするため、上が開いている「オープン型流路」というチップを使っています。使いやすくて便利な反面、空気に触れているため、中の水滴やオイルが乾きやすいという弱点がありました。AIに学習させるために、最低でも1時間は乾かないようにする必要がありました。そこで、チップを透明な容器に入れ、まわりに水を含ませて湿らせるというシンプルな方法を試したところ、水滴が縮むのを大幅に抑えられました。さらに、まわりのオイルの種類を工夫して蒸発しにくくし、目標だった「1時間の撮影時間」を確保することに成功しました。
  • 撮影方法の検討:顕微鏡を使って、AIの学習に必要な画像をスムーズに集められるようになりました。さらに実験を進めると、静止画(写真)よりも、パラパラ漫画のような動画(タイムラプス画像)を使ったほうが、細菌の種類を正確に見分けられることがわかりました。そのため、1つの場所で30コマほどの動画を大量に撮影する条件を固めました。
  • 大量の画像集め:決定した条件を使って、いくつかの細菌が混ざったサンプルを撮影し、AIがその混ざり具合(比率)を正しく当てられるかという問題に挑戦しています。そのための動画データを集め始めています。
  • ピッキング(回収)の条件づくり:狙った水滴を回収するために、以前のプロジェクトで導入したロボット装置を使っています。以前は直径10µm(1ミリの100分の1)の細胞などを回収する技術を開発しましたが、今回はこれを「さらに小さな水滴の回収」に合うように調整しました。水滴はツルツル滑って動きやすいため、1つを吸い上げようとすると、隣の水滴まで動いてしまうトラブルが起きました。そこで、チップの通り道に水滴が動かないようにする「かえし(引っかかり)」の構造を作りました。また、吸い上げる管の太さを見直し、水滴同士の間隔を少し広げました。その結果、まわりの水滴を邪魔せずに、狙った水滴だけをきれいに吸い上げて別の場所へ移すことができるようになりました。
  • 水滴の数を1万個に増やす:これまでは実験のために100個ほどの少ない水滴でテストしていましたが、回収の条件が決まってきたため、年度の後半では一気に1万個の水滴を並べられる巨大なチップを作り、よりたくさんのサンプルを扱えるようにします。

③ 画像AI診断法の開発

  • 水滴の場所を見つける:撮影した顕微鏡の写真から、AIが「ここが水滴の中身だ」と自動で見つけて切り出す流れを確立しました。また、AIの計算を行うための高性能なパソコンを導入し、分析のための準備を整えました。
  • AIによる細菌の見分け方と検証:今回の目標は、細菌に特殊な光る目印をつけなくても、水滴の中にどれくらい病気の菌がいるかをAIが画像だけで当てることです。これができれば、遺伝子を調べたりする難しい作業が不要になり、役立つ細菌をあっという間に見つけられます。実験では、クルマエビの病原菌と、中央大学の花壇の土から採った細菌を混ぜ合わせ、その比率をAIに当てさせました。動画から細菌の「動きの特徴」をデータとして取り出し、それを分析する手法(XGBoost法)を試したところ、約86%という高い確率で正解しました。これは、よく使われる他のAIの手法よりも圧倒的に優れた結果です。さらに、「時間の流れ」を上手にとらえる最新のAI手法(TCN法)を使ったところ、なんと93.3%の精度で分類することに成功しました。細菌ごとの独特な動きのパターンや周期的な変化を正確に見破れたと考えられます。

(2)成果(今回達成できたこと)

① マイクロ液滴アレイの形成、細胞封入と培養、ピッキング技術の開発

まわりをオイルで囲んだ小さな水滴(ドロップレット)に、病気の原因になる菌や環境中の細菌を閉じ込め、うまく育てる条件を突き止めました。また、上が開いたチップの弱点だった「乾燥」に対しては、まわりの湿度を上げたり、オイルの種類を工夫したりすることで水滴が縮むのを防ぎ、AIの学習に不可欠な1時間の撮影時間を確保しました。さらに、チップの中に「かえし(引っかかり)」の構造を作ったり、吸い上げる管の太さを調整したりすることで、隣の水滴を邪魔せずに、狙った水滴だけをロボットで正確に回収する技術を完成させました。

② バクテリア動的特徴解析に基づいた機械推論技術の開発

細菌に特殊な目印(光る物質など)をつけなくても、水滴の中にいる病気の菌の量をAIが画像だけで見分ける仕組みを作りました。クルマエビの病原菌と普通の細菌がどれくらい混ざっているかを当てるため、コマ撮り動画から細菌の「動きの特徴」をデータとして取り出しました。これをAI(XGBoost法)で分析したところ、一般的なAIの手法を大きく上回る約86%の確率で的中させました。さらに、時間の経過に伴う動きの変化を捉えるのが得意な最新のAI(TCN法)を使ったところ、細菌特有の細かい動きのパターンを正確に学習し、93.3%という非常に高い精度で見分けることに成功しました。

3 今後予想される効果(これによって未来はどう変わるか)

① 微小な水滴を並べる技術や、ロボット回収技術が広まる効果

このシステムが完成すれば、生き物の研究とデジタル技術が融合し、様々な分野で大革命が起きます。医療の世界では、これまで数日かかっていた「薬が効かない強いバイ菌(薬剤耐性菌)」の種類や、どの薬が効くかのテストがわずか数時間に短縮されます。これにより、重い病気にかかった患者さんにすぐ最適な薬を出すことができ、多くの命を救えるようになります。また、農業や環境の分野では、土の中などの複雑な環境をチップの上で再現し、お酒や味噌を作るのに使われる「麹菌(こうじきん)」などのカビがどう育つかを観察できるようになります。これにより、本当に環境に優しいプラスチックの開発や、新しいエコな細菌の発見がハイスピードで進みます。

② 細菌の動きを分析するAI技術が広まる効果

この技術は、バイオテクノロジーとAIが合体した未来の科学を開きます。今後、様々なストレスや薬に対して細菌がどう動くかのデータをたくさん集めることで、ただ種類を当てるだけでなく、「この未知の細菌がどんな珍しい能力を持っているか」まで動画を見るだけでAIが予想できるようになるかもしれません。さらに、このAIの予想と、ロボットによる水滴の自動回収を完全に組み合わせることで、人間が手を下さなくても、AIが自分で考えて新しい役立つ細胞を探し、選び出し、テストまでを自動で超高速で行う「実験ロボット」へと進化させることができます。これが実現すれば、新しい薬の開発や地球環境をきれいにする研究が、今よりも圧倒的にスピードアップすると期待されています。


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