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JKA Social Action
2023-2024年度(複数年研究)単細胞培養・選別に向けたドロップレット操作システムの開発 補助事業
1 研究の目的
この研究では、微生物や細胞の中から、社会に役立つ性質をもつものを効率よく見つけるための新しい装置を開発しました。たとえば、薬の材料を作る微生物、健康に役立つ微生物、環境にやさしいものづくりに使える細胞などを見つけることが、この技術開発の大きな目的です。
2 技術の内容
研究では、「マイクロドロップレット」と呼ばれる、とても小さな水滴を使います。この水滴は、目に見えないほど小さな実験室のようなもので、その中に1個または少数の細胞を入れて育てることができます。たくさんの小さな水滴を並べて観察することで、多くの細胞を同時に調べることができます。その中から、よく増える細胞や、役に立つ物質を作る細胞を見つけて取り出すことを目指しました。
これまで細胞を選ぶときには、大きな装置を使って一つ一つ調べる方法がよく使われてきました。しかし、その方法では、細胞が時間とともにどう変化するか、細胞がどんな物質を出しているか、
ほかの細胞とどのように関わるかを詳しく調べることが難しいという課題がありました。
そこで、この研究では、小さな水滴の中で細胞を育て、その様子を顕微鏡で観察しながら、目的の細胞を選んで回収できる仕組みを作りました。
研究では、「オープン型マイクロ流体チップ」という小さな装置を使いました。これは、細胞や水滴を精密に並べるためのチップです。チップの上に細胞や水滴をきれいに並べ、顕微鏡で観察します。そして、目的に合った細胞や水滴を見つけたら、ロボットのような装置を使ってその対象だけを取り出します。
3 主な研究成果
細胞をたくさん並べられるようになった
研究のはじめには、1つのチップで約100個の細胞を並べることができました。その後、流路の形を工夫することで、1,000個の細胞を並べられるようになりました。さらに、この構造を1つのチップに複数並べることで、最大で10,000個の細胞を扱える仕組みも作りました。これは、たくさんの細胞の中から有用な細胞を見つけるために大きな進歩です。
目的の細胞を取り出す方法を改良した
チップ上に並べた細胞を取り出すために、細いガラス管を使った回収方法を検討しました。細胞が乾燥しないようにする工夫や、細胞を固定して取り出しやすくする方法も試しました。その結果、細胞をより安定して取り出すための条件がわかってきました。
小さなゲルの粒を並べる実験も行った
応用例として、コハク酸というバイオ化成品の原料を作る大腸菌を調べました。小さなゲルの粒の中で大腸菌を育て、よく増えるものを選ぶ仕組みを作りました。これにより、役に立つ微生物を効率よく選ぶための方法として、この技術が使える可能性を示しました。
油中の水滴をそのまま並べることにも成功した
水のなかにある細胞などを並べるためには、水を流すために、流路の内部のみを親水化する必要がありました。しかし、この研究では、油の中にある小さな水滴をそのままチップ上に並べることができることも確認しました。これにより、より簡単な手順で細胞を調べられるようになり、さまざまな研究への応用が期待できます。
4 まとめ
この研究では、とても小さな水滴を使って細胞を育て、観察し、目的の細胞だけを取り出す技術を開発しました。多くの細胞を一度に調べられるようになったことで、役に立つ微生物や細胞を見つける研究がさらに進みやすくなると期待されます。
この技術が発展すると、薬や食品、環境に役立つ微生物を、これまでより効率よく見つけられるようになります。また、生きた細胞の変化を観察しながら、必要な細胞だけを取り出せるため、バイオテクノロジーや医療、環境分野での新しい研究に役立つと考えられます。将来的には、微生物を使った環境にやさしいものづくりや、持続可能な社会の実現にも貢献できる可能性があります。
2025年度 ドロップレット操作と画像AIによる細菌スクリーニングシステムの開発 補助事業
(1)実施内容
この研究は、豊かな自然や社会を未来に残すために、役立つ微生物(目に見えない小さな生き物)を効率よく見つけ出す技術をパワーアップさせ、実際に使えるようにすることを目指しています。これまでに、非常に小さな水滴(マイクロドロップレット)を使って、化学製品の材料を作ってくれる細菌を1つずつ見分けるシステムを作ってきました。今回はその進化系として、画像を見分けるAI(人工知能)と、微細な液体の通り道を持つチップを組み合わせて、自動で目的の細菌を選び出すシステムを開発します。
この『マイクロドロップレット法』は、ごくわずかな水分の中でたくさんの細胞を同時に育てることができ、他の雑菌が混ざる(コンタミネーション)のも防げる優れた技術です。この技術をベースに、深層学習(AIの仕組み)を使って水滴の中の細胞画像を分析し、役に立つ生き物を見つけて回収する仕組みを作ります(図1)。
特に、魚の養殖で問題になる「魚の病気(魚病菌)」に注目し、病気の原因になる菌を退治してくれる環境中の優しい細菌を、画像AIを使って探し出すことに挑戦しています。また、ロボットで細胞を拾い上げる装置を作っている企業とも協力し、安くてコンパクトなシステムとして商品化することを目指しています。
この研究が成功すれば、複雑な遺伝子の操作などをしなくても、簡単かつスピーディに役立つ微生物を選べるようになります。それぞれの漁場に合わせた病気対策ができるようになり、持続可能な食糧生産や、環境に優しい社会づくりに貢献できます。

A) 細菌のグループを、ごく小さな水滴(DL)に閉じ込める。
B) 水滴の中で細菌を育てる。
C) チップの上に水滴をきれいに並べて、顕微鏡で写真を撮る。
D) 写真をAI(機械学習)に読み込ませて、目的に合う細胞を見つける。
E) 目的の細胞が入った水滴だけをロボットで回収(ピッキング)し、次の実験や培養に使う。
① 小さな水滴(ドロップレット)の中で細菌を育てる工夫
- 水滴の中で細菌を育てる条件の決定:まわりをオイルで囲んだ小さな水滴(ドロップレット=DL)の中に、病気の原因になる菌や環境中の細菌を閉じ込め、うまく育てる方法や栄養の条件を完成させました。
- 高性能な顕微鏡での撮影:今回の助成金のおかげで、キーエンス社の最先端の顕微鏡(BZ-X1000)を導入しました。これにより、細菌を撮影するスピードと画質が格段にアップしました。普通のカメラに比べて画素数が非常に多いため、広い範囲を一度に撮影しても、1ミリの1000分の1(1µm)という超ミニサイズの細菌を1匹ずつはっきりと確認できます。さらに、複数の写真をパズルのようにつなぎ合わせて広い範囲を写す機能もあり、AIの学習に欠かせない「大量の画像データ」を集める準備が整いました。
② 上が開いたチップ(オープン型流路)の改良
- 乾燥を防ぐ工夫:ターゲットとなる優秀な細胞を、細いガラス管で吸い上げて回収(ピッキング)しやすくするため、上が開いている「オープン型流路」というチップを使っています。使いやすくて便利な反面、空気に触れているため、中の水滴やオイルが乾きやすいという弱点がありました。AIに学習させるために、最低でも1時間は乾かないようにする必要がありました。そこで、チップを透明な容器に入れ、まわりに水を含ませて湿らせるというシンプルな方法を試したところ、水滴が縮むのを大幅に抑えられました。さらに、まわりのオイルの種類を工夫して蒸発しにくくし、目標だった「1時間の撮影時間」を確保することに成功しました。
- 撮影方法の検討:顕微鏡を使って、AIの学習に必要な画像をスムーズに集められるようになりました。さらに実験を進めると、静止画(写真)よりも、パラパラ漫画のような動画(タイムラプス画像)を使ったほうが、細菌の種類を正確に見分けられることがわかりました。そのため、1つの場所で30コマほどの動画を大量に撮影する条件を固めました。
- 大量の画像集め:決定した条件を使って、いくつかの細菌が混ざったサンプルを撮影し、AIがその混ざり具合(比率)を正しく当てられるかという問題に挑戦しています。そのための動画データを集め始めています。
- ピッキング(回収)の条件づくり:狙った水滴を回収するために、以前のプロジェクトで導入したロボット装置を使っています。以前は直径10µm(1ミリの100分の1)の細胞などを回収する技術を開発しましたが、今回はこれを「さらに小さな水滴の回収」に合うように調整しました。水滴はツルツル滑って動きやすいため、1つを吸い上げようとすると、隣の水滴まで動いてしまうトラブルが起きました。そこで、チップの通り道に水滴が動かないようにする「かえし(引っかかり)」の構造を作りました。また、吸い上げる管の太さを見直し、水滴同士の間隔を少し広げました。その結果、まわりの水滴を邪魔せずに、狙った水滴だけをきれいに吸い上げて別の場所へ移すことができるようになりました。
- 水滴の数を1万個に増やす:これまでは実験のために100個ほどの少ない水滴でテストしていましたが、回収の条件が決まってきたため、年度の後半では一気に1万個の水滴を並べられる巨大なチップを作り、よりたくさんのサンプルを扱えるようにします。
③ 画像AI診断法の開発
- 水滴の場所を見つける:撮影した顕微鏡の写真から、AIが「ここが水滴の中身だ」と自動で見つけて切り出す流れを確立しました。また、AIの計算を行うための高性能なパソコンを導入し、分析のための準備を整えました。
- AIによる細菌の見分け方と検証:今回の目標は、細菌に特殊な光る目印をつけなくても、水滴の中にどれくらい病気の菌がいるかをAIが画像だけで当てることです。これができれば、遺伝子を調べたりする難しい作業が不要になり、役立つ細菌をあっという間に見つけられます。実験では、クルマエビの病原菌と、中央大学の花壇の土から採った細菌を混ぜ合わせ、その比率をAIに当てさせました。動画から細菌の「動きの特徴」をデータとして取り出し、それを分析する手法(XGBoost法)を試したところ、約86%という高い確率で正解しました。これは、よく使われる他のAIの手法よりも圧倒的に優れた結果です。さらに、「時間の流れ」を上手にとらえる最新のAI手法(TCN法)を使ったところ、なんと93.3%の精度で分類することに成功しました。細菌ごとの独特な動きのパターンや周期的な変化を正確に見破れたと考えられます。
(2)成果
① マイクロ液滴アレイの形成、細胞封入と培養、ピッキング技術の開発
まわりをオイルで囲んだ小さな水滴(ドロップレット)に、病気の原因になる菌や環境中の細菌を閉じ込め、うまく育てる条件を突き止めました。また、上が開いたチップの弱点だった「乾燥」に対しては、まわりの湿度を上げたり、オイルの種類を工夫したりすることで水滴が縮むのを防ぎ、AIの学習に不可欠な1時間の撮影時間を確保しました。さらに、チップの中に「かえし(引っかかり)」の構造を作ったり、吸い上げる管の太さを調整したりすることで、隣の水滴を邪魔せずに、狙った水滴だけをロボットで正確に回収する技術を完成させました。
② バクテリア動的特徴解析に基づいた機械推論技術の開発
細菌に特殊な目印(光る物質など)をつけなくても、水滴の中にいる病気の菌の量をAIが画像だけで見分ける仕組みを作りました。クルマエビの病原菌と普通の細菌がどれくらい混ざっているかを当てるため、コマ撮り動画から細菌の「動きの特徴」をデータとして取り出しました。これをAI(XGBoost法)で分析したところ、一般的なAIの手法を大きく上回る約86%の確率で的中させました。さらに、時間の経過に伴う動きの変化を捉えるのが得意な最新のAI(TCN法)を使ったところ、細菌特有の細かい動きのパターンを正確に学習し、93.3%という非常に高い精度で見分けることに成功しました。
3 今後予想される効果
① 微小な水滴を並べる技術や、ロボット回収技術が広まる効果
このシステムが完成すれば、生き物の研究とデジタル技術が融合し、様々な分野で大革命が起きます。医療の世界では、これまで数日かかっていた「薬が効かない強いバイ菌(薬剤耐性菌)」の種類や、どの薬が効くかのテストがわずか数時間に短縮されます。これにより、重い病気にかかった患者さんにすぐ最適な薬を出すことができ、多くの命を救えるようになります。また、農業や環境の分野では、土の中などの複雑な環境をチップの上で再現し、お酒や味噌を作るのに使われる「麹菌(こうじきん)」などのカビがどう育つかを観察できるようになります。これにより、本当に環境に優しいプラスチックの開発や、新しいエコな細菌の発見がハイスピードで進みます。
② 細菌の動きを分析するAI技術が広まる効果
この技術は、バイオテクノロジーとAIが合体した未来の科学を開きます。今後、様々なストレスや薬に対して細菌がどう動くかのデータをたくさん集めることで、ただ種類を当てるだけでなく、「この未知の細菌がどんな珍しい能力を持っているか」まで動画を見るだけでAIが予想できるようになるかもしれません。さらに、このAIの予想と、ロボットによる水滴の自動回収を完全に組み合わせることで、人間が手を下さなくても、AIが自分で考えて新しい役立つ細胞を探し、選び出し、テストまでを自動で超高速で行う「実験ロボット」へと進化させることができます。これが実現すれば、新しい薬の開発や地球環境をきれいにする研究が、今よりも圧倒的にスピードアップすると期待されています。
2025年度 JKA研究補助(国際交流)
中央大学大学院の長瀬裕希さんが、オーストラリアのアデレードで開かれた
国際会議「MicroTAS 2025」に参加し、自分の研究成果をポスターで発表しました。
この会議は、非常に小さな流路や装置を使って、化学・生命科学・医療・環境などの研究を進める分野の国際会議です。世界中の研究者が集まり、最新の研究について発表や意見交換を行います。
長瀬さんは、役に立つ微生物を見つけるための新しい方法を開発しています。具体的には、水になじみやすい部分と油になじみやすい部分を作った小さなデバイスの上に、たくさんの小さな液滴を並べました。この液滴の中に微生物を入れ、顕微鏡で撮影しました。さらに、その画像を機械学習で解析し、どの種類の微生物なのかを判定するための基礎的な仕組みを作りました。
発表では、液滴がどのようにできるのか、一度にどれくらいの数の液滴を作れるのか、また液滴の大きさがどれくらいそろっているのかについて、多くの質問を受けました。それに対して、現在の方法でどのくらいうまく液滴を作れているか、また今後どのように改良していく予定かを説明しました。
これまで、デバイスを毎回同じように作ることが難しいという課題がありました。しかし、海外の研究者と話し合う中で、デバイスを作るときの熱処理の条件をきちんと管理することがとても重要だと分かりました。
今回の国際会議への参加により、自分の研究の改善点をはっきりさせることができました。また、海外の研究者と交流することで、今後の研究を進めるための新しいヒントを得ることができました。今回の活動は、大学院生が海外の国際会議で研究を発表し、
世界の研究者から意見をもらう貴重な機会となりました。
小さな液滴を使って微生物を調べる技術は、将来的に医療、環境、食品、バイオテクノロジーなど、さまざまな分野で役立つ可能性があります。

KEIRINをみてきました!
JKA補助事業の多大な研究支援をいただき、ついに、KEIRINをみるために大宮競輪場を訪れました!(2026年7月)
FIレースの準決勝を観戦できました。迫力のあるレースで、選手が最終周に観客席近くを通り過ぎるときには、「ぶぅん」という空気を切り裂く音が聞こえました。予想を当てることはできませんでしたが、そのぶん、KEIRINに還元することができました!?(笑)。

私自身も、サイクリングが趣味です!





