中央大学

鈴木研究室

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鈴木研で学べる技術(学生向け)

微細加工

計算機やコンピュータの中核となる半導体電子回路をつくる技術を応用して,マイクロメートルやナノメートルの機械的構造物をつくることができるようになりました.エアバッグやスマートフォンに使われている加速度センサや,光通信のスイッチは,このマイクロマシニングで作られる機械装置の代表的な例です. そこからさらに派生して,マイクロスケールの構造物を細胞やDNA,タンパク質などバイオの試料の操作や検査に使う研究が発展して来ました.この分野は,マイクロタス,ラボオンアチップ(Lab on a Chip),バイオMEMS,バイオチップなど,様々な名称で呼ばれています(微妙な意味合いは違っても,明確な境界はありません).

フォトリソグラフィ

マイクロ・ナノの微細加工(マイクロ・ナノマシニング)では,切ったり削ったりという加工はあまり使われず,かわりに光と化学反応を使った加工がなされます.その根幹となる技術は,フォトリソグラフィと呼ばれます.つまり,光(フォト)を使って 版に印刷する(リトグラフ)技術です.その基本的な流れをみていきましょう.

まず,つくりたいもののデザインを,コンピュータ上のCADソフトで描きます.このデータをもとに,フォトマスク(レチクル)をつくります.フォトマスクとは,ガラスの基板上に透明部分と不透明部分のパターン(デザイン)が描かれているものです.フォトマスクの原板には,金属(クロム)の薄膜と感光性樹脂(フォトレジスト)が積層されています.フォトレジストの上に,レーザー等の光でデザイン通りの絵を描いていきます.この作業には,ミクロの精度で描画するための装置が使われます.フォトレジストの光が当たった部分は変性し,アルカリ溶液に溶けるようになります.この現像という作業を終えると,描画したデザインに対応して,金属薄膜が露出した部分と,樹脂で保護された部分ができます.これを,金属を溶かす溶液に浸すと,露出部分のみが溶解除去(エッチング)され,デザイン通りの透明と不透明のパターンが得られるという仕組みです.

(左)CADでマイクロパターンをデザイン.
(右)完成したフォトマスク.

フォトマスクは,その後の工程のマスターデザインとなります.まず,微細加工を施す基板材料(シリコンやガラスなど)の上に,フォトレジストを塗布します.刷毛などで塗るわけではなく,均一に塗布するためにスピンコータという装置を使います.基板上に液状のレジストを滴下し,基板を決まった速度で回転させると,遠心力で余分なレジストが飛ばされて,ミクロンレベルの均一な厚さに塗ることができます.加熱してレジストの溶媒を揮発させた後,先につくったフォトマスクを重ねて,その上から紫外線を照射します(コンタクト露光).すると,フォトマスクのパターンが,一括して基板上のフォトレジストに転写されます.この場合も,紫外線が当たった場所が変性するため,現像を行うと,レジストで保護された部分と露出した部分のパターンが得られます.その後,下の基板材料を除去する(溶かしたり,プラズマを使って一方向に掘り下げたりする)と,望みの立体的な構造が得られます.フォトマスクは繰り返し使えるため,この版を使って同じ構造を量産することができます.

(左)リソグラフィによる微細加工の手順.
(右)シリコンの深堀加工(Bosch Process)で作製したピラー構造

また,フォトマスクを使わず,基板上に塗布したレジストに,レーザーや電子線の描画装置を使ってひとつひとつ直接デザインを露光することもできます.この方式は直接描画と呼ばれ,手間はかかりますが,コンタクト露光よりもより精細な描画パターンが得られます.

ソフトリソグラフィ

バイオチップ,バイオMEMSの研究分野では,ソフトリソグラフィという技術が広く使われています.シリコンや金属などの「硬い」材料を使う従来のMEMS技術に対し,より柔らかく扱いが簡単な樹脂を使ったマイクロ加工技術がこう呼ばれます.この中で,最も広く使われており,当研究室でも日常的に使っている,シリコーンゴム(PDMS)の型取りプロセスを紹介します.

まず,シリコンやガラスの基板上に,透明で厚膜形成が可能な感光性樹脂をスピンコートにより塗布します.厚膜というのは,およそ1ミクロンから100ミクロン程度まで望みの厚さにできると考えてください.ミクロの世界では,100ミクロン,すなわち0.1 mmは十分に厚いのです.この程度の厚さがあれば,機械的な構造材料としても使えます.加熱により感光性樹脂の溶剤を除去した後,上記のフォトマスクを通して紫外線を照射し,パターンを転写します.SU-8と呼ばれるエポキシ系感光性樹脂では,紫外線照射部分が重合して硬化するので,現像(未硬化部分を溶剤で除去)後は,高さのある(アスペクト比の大きな)マイクロ構造ができます.
このマイクロ構造を鋳型として,液状のシリコーンゴム(硬化前)を流し込みます.シリコーンゴムを硬化させ,鋳型から剥がすと,ゴムに鋳型の形状が転写されたものができます.鋳型は繰り返しつかえるため,ひとつの型から多くの製品ができます.細胞や微量な試薬を扱うマイクロ流路やマイクロ反応容器は,このようにして作られます.

(左)シリコンチップ上につくった単一細胞計測のためのマイクロチャンバーの鋳型(電子顕微鏡写真).
(右)鋳型からシリコーンゴムに型取りをしたマイクロチャンバーデバイス.

3次元光造形 (Stereolithography)

最近は加熱した樹脂を塗りつけて積層し,3次元構造を造形する3Dプリンタがもてはやされていますが,光造形はもっと古くからあります.この技術では,光(紫外線)を当てると固まる(硬化する)樹脂を使って,三次元構造を積み上げていきます.まず,つくりたい構造を三次元CADで描きます.専用のソフトウェアを使って,それを水平方向の層状に分解し,各層のビット膜画像を出力します.光造形装置は,このビットマップ画像をもとに,二次元パターンの光を順次当てて,徐々に積層することにより三次元構造をつくります.積層方式は装置によって様々ですが,当研究室で使っている装置では,リコータと呼ばれる「へら」のようなもので樹脂を10ミクロンピッチで塗っていきます.塗るごとに,ビットマップ画像に従ったパターンの光を当て,それを繰り返していきます.最終的に溶剤によって未硬化の樹脂を洗い流すと,写真のような三次元構造ができます.

マイクロ光造形機で作製した3次元構造を持つマイクロチャンバーの鋳型と,
そこから型取り成形したシリコーンゴムのチャンバーデバイス(右上)

電子顕微鏡

私たちが目で見ている光(可視光)の波長を知っていますか?およそ0.5ミクロン前後です.なので,10ミクロン以下の構造をくっきりとみることは難しいですし,1ミクロン以下の構造はほとんど見えません.なので,上で紹介した微細構造をくっきりと鮮明に見るには,より波長が短い電子線を使います.見たいものを真空の小部屋に入れて電子線を当て,その反射をとらえることで,図のような画像を得ることができます.

ウェット系実験

鈴木研究室では,機械系の学科にありますが,細胞やタンパク質,DNA,その他いろいろな試薬等,生物・化学の材料を扱います.ミクロ・ナノの機械を使って化学や生物の問題を解く研究をしているからです.  なので,機械系の学生が扱ったことのないピペットや試験管,また分析機器等を使います.テーマによっては細胞培養も行います.これらの操作方法やバックグラウンドとなる知識は研究室配属後にトレーニングで学んだ後,卒業研究を開始します.


顕微鏡

鈴木研では小さな構造や細胞などを扱いますが,これらは肉眼では見えないので,様々な顕微鏡を使います.顕微鏡には,大きく分けて工業顕微鏡と生物顕微鏡の2種類があります.

工業顕微鏡は,金属や樹脂,半導体などでできた対象をみるためのものです.対物レンズが上側についており(正立型顕微鏡といいます),ステージに載せた対象物に対物レンズを通して照明を当て,観察します.比較的倍率が小さく,焦点距離(レンズから対象物までの距離)が大きなものは実体顕微鏡と呼ばれます.

一方,細胞や生物組織を見るために使われるのが生物顕微鏡です.色素で染まった細胞や組織もありますが,一般的に細胞は無色透明です.従って,微妙なコントラストをつけてみる必要があります.高性能な生物顕微鏡は,ほとんどの場合,対物レンズが下側についています(倒立型顕微鏡と呼ばれます).照明を上から当てて,対象物を透過した光を下側の対物レンズで拾って観察します.
 また,細胞の中のDNAだけをみたい,ある特定のタンパク質だけを見たい,と思っても,普通の照明では見分けがつかないのですが,それを実現するための強力な方法があります.それは,蛍光観察と呼ばれます.蛍光観察では,ある特定の波長の光(励起光と呼ばれ,紫外線,青色光,緑色光などがよく使われます)を,蛍光物質を含む試料に当てます.蛍光物質とは,ある特定の波長を吸収し,それとは少し「ずれた」波長の光を発する化学物質です.詳しくは延べませんが,生物学の世界では,いろいろな方法を使って,DNAやタンパク質など特定の物質にこれらの蛍光物質をつける(染める)ことができます.または,遺伝子操作により,蛍光を発するタンパク質を細胞の中でつくりだすことができます.すると,特定色の励起光を当てると,少し色の違う光を発するので,光学フィルタで波長をうまく分けることによって,細胞の中の特定の物質のみを顕微鏡で見ることができるのです.暗闇の中に光った組織が浮かび上がるイメージです.

鈴木研究室では,肉眼では見ることのできないミクロやナノの構造を使った研究をしているため,工業顕微鏡,生物顕微鏡ともに様々な種類の顕微鏡を使用しており,それらの操作方法や原理を学ぶことができます.


研究室で使用しているHeLa細胞の顕微鏡明視野画像(左)と蛍光画像(右)

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